本年度は、環境保護の分野の市民団体のフォローアップに努めるとともに、2年目の研究対象である安全保障の分野の市民団体の調査にも可能な限り取り組んだ。本研究の第1の目的である市民社会の実態把握に関しては、ほぼ計画通りに進んだと言える。マレーシア、シンガポール、インドネシア、韓国、台湾で現地調査を行い、環境保護だけでなく安全保障の分野で活動する代表的な市民団体の指導者とスタッフに聞き取り調査を行い、市民団体の活動実態についての有益な情報と膨大な一次資料を入手した。現地調査を行えなかった国(タイ、フィリピン、中国、モンゴルなど)については、2年目にあわせて調査を行う予定である。研究成果としては、まず『東アジアの中の日本-環境・経済・文化の共生を求めて』の中で「東アジア共同体の共生空間と市民社会の地平」という論文を公表した。同論文は、環境保護と安全保障の分野で活動する市民団体の意義を東アジアの共生という視座から検討したもので、本研究課題の予備的論稿と位置づけられる。環境保護については、関連するシンポジウムやワークショップへの参加を通じて得た知見をもとに、「東アジアの環境ガバナンスと市民社会」と題する論文を執筆中であり、今後、学会誌などに投稿する予定である。なお、学会のテーマ性との兼ね合いから、10月に開催された北東アジア学会で「東北アジアの紛争予防と市民社会一GPPACを中心とする下からの地域安全保障共同体の可能性」と題する報告をした。同報告については、今後の現地調査を踏まえて、学術論文として学会誌などに投稿する予定である。また、調査を通じて東アジア共同体形成では市民社会ネットワークに労働組合が積極的に参加するようになっていることが明らかとなった。この関係で、『北東アジアにおける労働組合の国際交流の役割』と題する報告書の中で韓国の労働組合に関する論文を公表した。
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