本年度は、紛争予防に関わる市民団体への聞き取り調査に取り組むことが目的であった。この目的のために、東北アジアにおいては日本、韓国、中国、香港、モンゴルの市民団体への聞き取り調査と一次資料の収集を行った(台湾は前年度に調査を終了)。東南アジアについては、前年度にマレーシアとシンガポールの市民団体の訪問を行っていることから、今年度はフィリピン、タイ、カンボジアへの訪問を予定していたが、タイについては現地の事情から、カンボジアについては時間的制約から調査を断念し、最終年度に訪問することとし(インドネシアは前年度に調査を完了)、フィリピンでのみ現地調査を行った。 研究成果としては、論文として「東北アジアの紛争予防とトランスナショナルな市民社会-GPPAC東北アジアプロセスに注目して」を完成させ、2010年1月に富山大学で開催された「東アジア共生課題研究会ワークショップ-地域からの「東アジア共生」へのアプローチを探る」で公表した。この成果を、4月以降にワーキングペーパーとして京都大学グローバルCOE「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」で公表した後、学会誌へ投稿する予定である。また、2009年12月に公表した「東南アジアの新しい地域秩序とトランスナショナルな市民社会の地平」『国際政治』第158号、は、急速に地域主義が発展する東南アジアの動向を先取りし、特集号にあわせて公表した論文であり、ASEAN共同体形成過程におけるトランスナショナルな市民社会の関与の実態を詳細に論じている。同論文では、最終節で出稼ぎ労働者の権利を含む人権の保護に従事する市民団体の動向を概観しており、これをさらに発展させ、人権に焦点を当てた調査を行う最終年度へとつなげる予定である。
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