人権擁護に関わる市民団体への調査を目的とする本年度は、人権という枠組みの中で先鋭化する移民労働というイシューにも目を向けながら調査活動と研究活動に取り組んだ。その主たる成果として、10月30日に開催された日本国際政治学会のASEAN部会において、「ASEAN共同体形成におけるトランスナショナルな市民社会の地平-移民労働者をめぐる下からの『オルターナティブな地域主義」の可能性と限界-」と題する報告を行った。また、11月26日に開催された、京都大学大学院グローバルCOE「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」のコアプロジェクト研究会において、「東南アジアの移民労働者と市民的公共圏の再編-トランスナショナル市民社会の政策関与の実態と課題-」と題する報告を行った。いまだ十分に把握されていない市民社会ネットワークの実像とそれが創出する「下」からのオルターナティブな地域主義の効用を明らかにしたこれらの研究報告は、実証面で先行研究の隙間を埋めるだけでなく、国家中心的な既存の地域主義研究の理論面に修正を迫る性格を有する。また、同様の視点から、前年度の研究の焦点であった紛争予防に関わる市民社会ネットワークに関する成果を「東北アジアの新しい安全保障秩序とトランスナショナルな市民社会-批判的国際関係論の視座から-」と題する学術論文にまとめた。同論文は、現在学会誌に投稿中である。これらに加えて、関連する研究成果として、市民社会に関する理論的・実証的考察をフィリピンを事例として行った著書『民主化と市民社会の新地平-フィリピン政治のダイナミズム-』(早稲田大学出版部、2011年3月)を刊行した。
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