1980年代に数理物理において研究が始められたW代数は、豊富な例を有する興味深い研究対象である。1990年代になって、頂点作用素代数の観点から、数学においても活発に研究がなされ、今日に至っている。一般論もある程度整備されてきているが、その一方、W代数は複雑な構造を持つため、詳しく調べられている具体的な例は多くない。本研究は、格子頂点作用素代数の内部に部分代数として現れるW代数について、格子頂点作用素代数の理論を用いてそのW代数の既約加群を構成し、W代数に対する理解を深めることを目標とする。特に、基本的なW代数のひとつであるパラフェルミオン頂点作用素代数を研究対象とする。パラフェルミオン頂点作用素代数は、一般に階数1のA型ルート格子のk個の直交和から定義される頂点作用素代数に含まれる。平成20年度では、さしあたりkが小さい場合について詳しく計算を行うことにより、パラフェルミオン頂点作用素代数の既約表現を具体的に構成し、さらに既約表現を分類することができた。また、kが小さい場合には、パラフェルミオン頂点作用素代数が有理的であることを証明した。この計算で重要なのは、ウエイトの小さい特異ベクトルを決定することである。研究成果の概要は、Bulgarian Journal of Physicsの増刊号に掲載された。また、イリノイ州立大学で開催された国際研究集会(平成20年7月10日)において口頭発表をした。kが一般の場合について調べることは、今後の課題である。
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