本年度はまず、デデキントゼータ関数が関連する剰余位数の分布問題において、新しい進展があった。それは、整数aと素数qを固定したとき、aの剰余位数が素数qで割り切れる、という条件に、平方剰余に関するある条件を付加した場合の素数分布である。この場合に、aに関する少し軽い制限のもとで、問題の素数の自然密度を決定することができた。またこれとは別に、デデキントゼータ関数のリーマン予想が関連する「2変数版」の剰余位数分布問題に関して、分類する法が4の場合に、目的の集合の自然密度の具体的な値を記述できるための条件を少し緩めることができた。剰余位数、平方剰余とも、応用数学の一つである暗号理論と関連するので、そうした方向への応用も、今後期待される。符号理論においては、応用系の研究者によって現在盛んに研究されているLDPC符号に、数学面から光を当てる試みを始めた。結果として、頂点数が3の倍数であるような、ある種のタナーグラフを用いて新しい2部グラフを構成する方法が得られた。これは幅広い種類のグラフに適用可能なため、今後の応用が期待される。さらに、符号理論において理論と応用の乖離が進んでいる現状を鑑み、応用系で実際に符号の実装を研究している研究者と、数学理論としての符号理論を研究している研究者の交流を活発にし、新しい発展を生むための活動として、これら2分野の研究者の交流会に参加し、討論を行なった。これは今後の長期的な研究を視野に入れた準備活動である。
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