本年度は本研究課題最終年度であり、昨年度に引き続きヤコビアン予想「n次元複素空間のn変数多項式写像はそのヤコビアンが零でない定数ならば同型写像となる」の研究を代数的および位相幾何学的な立場から行った。とくに2変数ヤコビアン予想について研究を進めてきた。昨年度までに多項式写像に付随する疑有限点の概念を導入、擬有限点の存在と予想の成立が同値であることに注目してきた。一方、擬有限点は、標準的多項式写像といわれるある種の条件を満たす多項式写像のもとでは、存在すれば無限遠直線とx軸が交わるただ一点のみであることが示され、これら2つの事実より、この一点が擬有限点あることと予想の成立が同値であることを得た。さらにこの存在に関する問題を標準的多項式写像によって引き起こされる有限分岐被覆の問題ととらえ、その位相的性質を研究してきた。本年度はそれまでの成果をもとに、とくに分岐集合と擬有限点の関係について詳細な研究を行った。その結果、とくに擬有限点の多項式写像による像の概念を、擬有限点の定義点列の多項式式写像による像の極限よりなる集合として定義すると、その像は代数曲線であり分岐集合になることを得た。さらにこの曲線およびx軸の像となる既約な曲線の2種類の曲線の逆像で得られる曲線の特異点の一つである擬有限点の近傍における高次元絡みの様子を明らかにした。この結果を用いてヤコビアン予想についての反例が存在するための様々な位相幾何学的条件を得ることができた。なお上記の定義の詳細はウエブ上でも公開されている「ヤコビアン予想の位相的側面」第54回代数学シンポジウム報告集p99-108を参照してください。
|