交付申請書の「研究の目的」および「研究実施計画」に即していえば、そこで研究テーマとしてあげた次の二つの問題: (A)K3曲面と球のつめこみ問題、および (B)“Semi-stable extremal"な楕円曲面の存在、有限性定理と定義体 についての研究を完成させ、下記「研究発表」欄の第1、第2の論文として公表した。また、後者についての東京大学におけるレクチャーノートも出版された。 (A)では、6以下の正整数nと2つの連続パラメータを持つ具体的なワイヤストラス方程式で定義される楕円K3曲面について、パラメータを固定したとき、曲面の超越格子の構造がnについてどう変化するか、を決定した。これからモーデル・ヴェイユ格子、ネロン・セヴェリ格子の構造も決定される。証明のキーの一つは、球のつめこみ問題と関係付けることにより、格子つめこみの密度の知見をK3曲面の幾何学に応用することであった。この結果の意義は、超越格子が決定できるK3曲面のリストを従来より大幅に増やすことに成功したこと、さらにこれらのK3曲面が具体的な定義方程式をもっていることにより、代数幾何的・数論的視点からより精細な研究を可能とする点にあると考える。 (B)では楕円曲面を1変数多項式環のabc-定理との関係で考察した。とくに、abc-定理で等号が成立する場合に注目してBelyiの定理を適用するにより、一般の算術種数の場合に、射影直線上のsemi-stable extremalな楕円曲面の存在を確立した。さらに、それらの曲面の同型類の個数の有限性、および曲面の適当なモデルが有限次代数体上に定義されることも併せて証明した。これは、有理楕円曲面(算術種数1)やK3曲面(算術種数2)に関するBeauvilleやMiranda-Perssonの既知の結果を拡張したもので、今後の楕円曲面の研究にとって重要であると思う。
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