平成20年度からの継続として、対数的スムース退化の典型例であるログデフォメーションの相対対数的ドラームコホモロジー群上に「偏極」を構成することに取り組んだ。平成20年度の研究により、ログデフォメーションの相対対数的ドラーム複体上に「積構造」が定まることが示されており、次に取り組むべきは、最高次数のドラームコホモロジー群からのトレース射を見出すことであった。そのためには、ウェイトフィルトレーションから定まるスペクトル列のE_1-項から積分によって与えられる射が、E_2-項からの射に降下することを確かめれば良いことが、既に昨年度の研究によって示されていたが、平成21年度には、この「降下」を示すために、上記スペクトル列のE_1-項の間の射をギシン射と制限射を用いて記述した上で、積分とこれらの射との間に成り立つ関係式を正確に計算することに取り組んだ。その結果、従来からの単体的手法に改良を加えることによって、この計算をより正確に、しかも見通し良く実行することができることを見出し、最終的に然るべきトレース射を構成することに成功した。(この成果の一端を京都大学数理解析研究所で行われた研究集会「高次元代数幾何の周辺」において発表する機会を得た。) 平成20年度・21年度の研究により、ログデフォメーションの相対対数的ドラームコホモロジー群上に「偏極」を構成するためのデータである「積」と「トレース射」を構成することができた。従って、これらのデータがまさしく「偏極」を定めるものであることを確かめることが来年度の最初の課題となる。
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