複素微分幾何学における主問題のひとつに、ケーラー多様体が何時スカラー曲率一定のケーラー計量を許容するか、という問題がある。 ケーラー多様体上の既約な正則束がアインシュタインーエルミート計量を許容する為の必要十分条件は、マンフォード・竹本の意味で安定である事が、小林昭七、ドナルドソン、ウーレンベックーヤウらによって示された。ヒッチン-小林対応である。 正則ベクトル束の場合と同様に、多様体においても定スカラー曲率ケーラー計量を許容する為の条件は代数幾何学的な安定性が対応すると考えられている。いわゆるケーラー多様体のヒッチンー小林対応の問題である。多くの研究者の努力によりさまざまな部分的解決、拡張を含み多大な進展が得られているが、今だ解決には至っていない。 本研究者が最初にこの問題に関連する問題を扱ったのは、アインシュタイン・ケーラー計量が存在する為の障害である二木不変量を定スカラー曲率ケーラー計量を含むより広い範囲の計量に対する障害に拡張する時であった。その拡張においては、ケーラー計量の曲率テンソルがある種の対称性を持つことが有効に便われた。 近年概複素多様体がシンプレクティック幾何との関連もあって、盛んに研究されるようになってきた。基本形式がシンプレクティック形式となる概複素多様体は概ケーラー多様体とよばれるが、概ケーラー多様体の曲率もケーラー多様体の場合と同様な対称性を持つことが知られている。 また、ケーラー多様体の安定性の概念はシンプレクティック幾何とも密接な関係を持っていることが分かっている。 そこで、概ケーラー多様体においても二木不変量が意味を持つのではないか、と考え、実際にある意味で「安定性」と関連するような拡張が成り立つ事を確認した。
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