21年度はリッチフローのシンプレクティック幾何的な設定について考察した。おもに二つの設定について考えた。 ひとつはリッチフローの余接束を相空間と考えその上の標準的シンプレクティック形式に関する幾何を考える設定である。このときペレルマンのL-測地線の方程式により定まるハミルトン系を考えて、これにより相空間の時間に依存するパラメータ付けを考えることにする。シンプレクティック構造と整合的な概複素構造が相空間上の幾何を定めることになるが、計量の発展に応じて適当な概複素構造を選ぶと、時間発展がハルナック表現により与えられることがわかった。この設定におけるひとつの目的はケーラーアインシュタイン計量の安定性に関するドナルドソンの洞察の類似がどの程度有効なのかを調べることにある。 もうひとつの設定はn次元多様体X上の計量全体の空間Mを考え、Mの形式的余接空間Pのシンプレクティック構造を考え、リッチフローをルジャンドル変換によりその上の曲線と考える設定である。Mの形式的余接ベクトルは対称テンソル値のn微分形式となるが、測度Vをひとつ固定して、対称テンソルと見ることもできる。Pには自然な完全シンプレクティック構造が定まる。とくにP には自然にX上の微分同相群がハミルトン作用するが、とくにこの作用をVを保つ微分同相に制限してシンプレクティック商を取ると測度つき計量の微分同相類上の余接束をうる。この場合の余接ベクトルはペレルマンのビアンキ恒等式を満たす対称テンソルと見ることができる。これはペレルマンの与えたリッチフローのパラメータ付けのシンプレクティック的解釈に過ぎないがこの設定における目的はシンプレクティック商の上でさらにハミルトン作用を見つけることにより、より精密なパラメータ付けやリッチフロー上の単調量を見出すことにある。
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