リッチフローの特異時間付近での曲率の基点評価を行うのにエントロピーなどペレルマンによって導入された量の評価を精密化し技術的に改良することを考えていたが、局所的な位相の集中に反応する量を導入しなければ、ほとんど可能性がないということが分かったのが昨年度の研究の主な進展である。基点評価を行うにはリッチ平坦なスケーリング極限をモデルとする特異性の非存在を示すのが重要であるが、エントロピーや簡約体積はリッチ平坦スケーリング極限の遠方の挙動(例えばユークリッド漸近錐)に反応するのみであり、しかもその反応は単に評価定数が変わるのみである。一方、この状況でこれらの量は漸近錐の頂点付近に引き起こされる(例えばコホモロジーなどの)位相の集中を無視してしまう。 L-幾何はリッチフローの相空間上でスカラー曲率をポテンシャルとするハミルトニアンによる古典力学系と見ることができ、ペレルマンの理論はその力学系におけるラグランジュ多様体の発展の幾何学と見なすことができる。この設定を一般化して位相の集中を測る量を定義するのが課題となるが、本年は例えば相空間上のシンプレクティック類を配置空間のコホモロジー類でひねり、L-幾何との類似を見るなどの試みを行った。その結果古典力学系の情報だけではあまりうまくいかないようなので、量子力学的な情報も付け加えて設定をする、というのが今後の研究の指針である。具体的には相空間のラグランジアン上に半形式や線束などの情報も付け加えて幾何学的量子化を行うことを考えたい。これはおそらくリッチフローに沿って対数型シュレディンガー方程式を発展方程式とする量子系を考えることに対応するはずである。
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