リッチ流の曲率基点評価を得るためにリッチ流のスケーリング極限がリッチ平坦とならないことを示すのは非常に重要なステップである。これを示すためリッチ流に沿って単調となるような計量不変量を探すことを具体的な目標として研究を進めた。例えばペレルマンの研究では確率測度付きの計量を考え、そのエントロピーの単調性を導くのであるが、エントロピーの単調性だけからはリッチ流のスケーリング極限がリッチ平坦となる可能性を排除できず、その増大度の評価が必要となる。 このような単調量を探すために24年度は主に計量の相空間を構成し、リッチ流をその上の流とする設定について考察した。ここで相空間は計量の空間の余接束に標準的シンプレクティック構造を与えたものであるが、確率測度は余接束上の複素構造を定め、相空間にケーラー構造を定める。リッチ流は計量流とみる場合、微分同相の作用による対称性を考えるのが自然であるが、この作用は相空間上のハミルトン作用を導き、確率測度を不変にする微分同相は相空間のケーラー構造を不変にする。つまり相空間において微分同相による対称性はハミルトン作用に、測度付きの対称性はケーラー等長同型や複素正則作用に一般化される。 これはドナルドソンがケーラーアインシュタイン多様体の研究において行った設定に類似したものであるが、この状況で相空間上で(一般化された)リッチ流がケーラー構造をどのように変形するか考察することにより、新しい不変量や単調量を見出すことがこの設定の狙いである。
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