研究概要 |
或る意味で新展開とも言える方向の研究業績が得られつつある.Thurstonの不等式は3次元多様体の実係数2次元cohomology群のThurston normによって表現され,葉層構造が「きれい」であるとき,あるいは或る種の凸性を持っとき,成立すると考えられている.葉層構造はその葉が無駄なく巻きつき合っているとき典型的と呼ばれる.正確には,全ての葉のholonomy被覆が可縮のとき,その葉層は典型的であるという.従って,典型的葉層はThurstonの不等式を満たすかどうかが自然な問題となる.研究代表者が2010年7月にBarcelonaのCentre de Recerca Matmaticaで開催された国際会議で講演した結果は「任意の可附向閉3次元多様体上に余次元1の滑らかな典型的葉層が存在する」という定理であって,この事実は「任意の可附向閉3次元多様体は,或るholonomy亜群の分類空間とhomotopy同値である」ことを意味する.ここで,そのholonomy亜群とはその多様体上の或る(典型的)葉層に付随するものである.この意味で,典型的葉層構造はThurstonの不等式のみならず,葉層構造論に於いて非常に重要かつ興味深い対象であり,上記定理は基本的重要性を持つと思われる.また,研究分担者による一連の結果は4次元多様体上の2次元葉層による葉実現問題及び5次元多様体上の余次元1葉層の葉のsymplectic構造と複素構造に関するもので,3次元に於ける研究への研究の深化とその関連の解明が期待される.またこれらの結果のうち一部は,知られていた定理の誤りを訂正するものでその点でも大きな注目を浴びている.
|