研究概要 |
絡み目ダイアグラムからJones多項式やKauffman多項式などの多項式不変量を計算する問題は#P-困難であることが知られている.したがって,全ての絡み目ダイアグラムに対してこれらの多項式不変量を多項式時間で計算することは不可能だと予想される.入力する絡み目ダイアグラム制限することによっては多項式時間で計算出来るような例がいくつか知られている.幾何学的特徴を持ついくつかの絡み目のクラスについて多項式不変量の計算時間を解析することは多項式時間で計算できるクラスの境界を探ることにつながる.これは計算量解析の研究として重要なだけではなく,絡み目の複雑さを計算量の観点から考察するものであり,トポロジーに新しい視点を与えるものである. 本研究の代表者,分担者を含む研究グループは,交点数がNの2橋絡み目ダイアグラムや3閉組み紐ダイアグラムをO(N)時間で認識できること,それらのJones多項式がO(N)回のO(N)次多項式の四則演算で計算出来ることをすでに示していた. 本年度の研究では,2橋絡み目に関して我々が開発したアルゴリズムの改良を行い,改良版のアルゴリズムの解析を行った.その結果,計算時間が多項式の計算にかかる時間も含めるとこれまでのO(N2logN)時間から改良版ではO(N2)時間に高速化されたことを証明した.また,これまでに得られたアルゴリズムを実装し,Pretzel結び目のJones多項式の値をデータベース化するための予備計算を始めた.十分大きな頂点数をもつPretzel結び目のJones多項式の値をデータベースとして公開することによりPretzel結び目やMontesinos絡み目など類似の構造をもつ絡み目に関するJones多項式に関して新たな知見が得られるものと期待している.
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