研究概要 |
空間依存型の分枝率を伴う測度値分枝マルコフ過程の構成を行い、その存在と一意性および正則性について調べた。これは場所ごとの環境の善し悪しに応じて分枝率が変化する対象を記述できるモデルであって、生化学や生理学における触媒作用やフィラメントの薬物反応に対して応用可能な潜在的能力を秘めた数理モデルである。そこでこの確率過程に基づいて、がん細胞に対する免疫応答に関する確率モデルを提案した。分枝機構には漸近優臨界性を仮定し、がん細胞の形質転換期およびその後の無秩序増殖期を記述できるように、モデルのランダム分枝粒子系には加速増殖性を仮定した。免疫作用としてはNK細胞、キラーT細胞、マクロファージ等のエフェクター群による細胞障害性の効果を分枝確率過程論の言葉で移入率として取り入れた。しかし前年の研究では定数移入率として扱ったため、現実的なモデルからはかけ離れたものになってしまった。今年度ではこの点を改良して(i)場所ごとに異なる効果、(ii)対象領域の場の蓋然性的実現、が記述できるように移入率の導入をより一般化して取り扱った。また前年度から懸案であった消滅性問題についても一応解決を見た。モデルである超過程の局所消滅性はエフェクター群の効果によりがん細胞が局所的に駆逐される様子に対応すると考えられるので応用上極めて重要な性質である。(i),(ii)についてはデインキンの方法によりランダム測度に付随する超過程を構成することにより実現できた。また消滅性に関しては、過去の経歴情報を保持するヒストリカル超過程に変換して論じることにより有限時間消滅性として証明に成功した。
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