今年度前半は2008年夏に開催した「関孝和三百年祭記念数学史国際会議」の会議録編集に全精力を費やした。全ての講演は招待によるものであったから、内容については問題がないはずであったが、実際には300年の歴史の中で形成された定説の誤りを正してもらうのに多大の精力を費やさざるを得なかった。関孝和及びその直接の弟子たちの業績は比較的よく知られているが、関西にいた田中由真、井関知辰や仙台にいた戸板保佑たちの仕事はまだまだよく研究されていない。後半年はこの人たちの業績解明に多くの時間を使った。この結果はこの秋に津田塾大学で開かれる第22回数学史シンポジウムで報告する予定である。建部賢弘、賢明兄弟は、師の関孝和が行列式を導入したときに発表した行列式展開の便法である交式・斜乗を、後に大成算経にまとめるときには捨ててしまったが、その理由もかいま見ることができたのではないかと思っている。 フーリエは「熱の解析的理論」(1822)の第V章で球体の球対称な熱の伝導を論じている。ここでは時にロバンの名前が与えられている第三種境界条件が現れる。1862年ケルビン卿は、これを簡易化したモデルを用いて地球の年齢を論じ1億年を超えないと結論して進化論者たちを落胆させたが、19世紀末工部大学校の教授であったペリーとヘヴィサイドがこの危機を救ったという話を用意し、研究成果として今後発表をしていく予定である。
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