研究概要 |
ランダムに不純物を含む多次元格子上のランダムウォークの再帰性の問題を解決するにあたって,多重点の個数に関する大偏差原理を考える必要があり,一昨年度から目標設定を行ったブラウン運動の標本路の定める筒型集合(いわゆるWiener sausage)の体積のエントロピー関数の決定を引き続き研究した.時刻が増大するときの体積め増加率は,自由エネルギー関数の原点での挙動に関係していることが知られているが,これはエントロピー関数の決定の視点に立つと上からの評価を与えたことになっている.問題は下からの評価であるが,そのためにはWiener sausageの体積の期待値を求めることが必要になると考え,昨年度に得られた奇数次元の結果と合わせて,偶数次元の場合にも公式を与えることにした.しかし,第2種変形ベッセル関数の性質が異なるため.証明方針の根本的な変更が必要となった.そこで,Wiener sausageの体積の期待値は,ベッセル過程の到達確率の出発点での積分あることに着目して,ベッセル過程の到達確率に関する公式を与えることにした.この到達確率は,変形ベッセル関数の比で表示されることが知られており,出発点が到達点よりも内側の場合は第1種,外側のときは第2種を用いて表される.前者の場合は第1種ベッセル関数とその零点で,後者では第2種変形ベッセル関数とその零点で表示できることがわかった.後者については,近年,ポーランドの研究者によって研究が進められているが,形が複雑で公式としては難解なものになっている.しかし.今回得られた結果は.複雑な形をしていないので理解しやすい.以上,これらの結果を整理し,論文の執筆にとりかかった.また,昨年度末に執筆にとりかかったWiener sausageに関する論文は,今年度完成し,現在,改訂稿の査読が終了していることを付記しておく.
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