研究概要 |
ランダムに不純物を含む多次元格子上のランダムウォークの再帰性の問題を解決するにあたって,3年から目標設定を行ったブラウン運動の標本路の定める筒型集合(いわゆるWiener sausage)の体積のエントロピー関数の決定を引き続き研究した.前年度に引き続き,エントロピー関数の下からの評価で必要なWiener sausageの体積の期待値を求める研究を行った.奇数次元の結果はすでに得られていたが,偶数次元の場合には第2種変形ベッセル関数の性質が異なるため,証明方針の根本的な変更が必要となっていた.ベッセル過程の到達確率の出発点での積分であることに着目して,ベッセル過程の到達確率に関する公式を与えることに成功したが,出発点で積分することが困難であるために,再び方針の変更を余儀なくされることとなったが,ここで開発された手法を修正して用いることで,偶数次元の場合においてもWiener sausageの体積の期待値の公式を与えることができ,さらに短時間および長時間の漸近挙動を得ることができた.また,その際に第2種ベッセル関数の比に関する公式を与えたが,それがベッセル過程の到達時刻の確率分布に対するレヴィ測度を導くことがわかった.この結果は当初の目的にはなかったので想定はしていなかった.本研究の副産物であるが,加法過程の研究者の間では一定の評価を受けている.以上,これらの結果を整理し,論文の執筆にとりかかった.来年度中には投稿できるものと思われる.また,昨年度末に執筆にとりかかったベッセル過程の到達時刻の分布関数に関する論文は,今年度完成し,査読つき学術雑誌に掲載が決定したことを付記しておく.
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