研究概要 |
平成21年度は,はじめに,台車の質量を仮定した二つの荷物を有する天井クレーンの安定化問題を扱った先の論文(H.Sano, IMA Journal of Mathematical Control and Information, Vol.25, pp.353-366, 2008年)を補足し,Theorem 5.1とTheorem 5.2の証明を完全なものにした.なお,上記の論文は一つの荷物を有する天井クレーンも含んでいたので,同時にその安定化に関する箇所も補足したことになる.つぎに,境界入力をもつプラグフロー反応方程式の有限次元コントローラによる安定化問題を扱った.プラグフロー反応方程式はもともと,二つの1階双曲型偏微分方程式によって記述されるものであったが,ここでは拡散の影響を考慮したより現実的なモデルに着目し,有限次元安定化コントローラの設計法を与えた.移流項を伴わない単独の拡散方程式に対しては,Sakawa(1983年)によってresidual mode filter(Balas,1988年)を用いた手法が提案されていたが,そのフィルタがカップリングした境界入力をもつシステムに対しても効果的に働くことを理論的に明らかにした.また,数値実験を通して制御性能に関する検証を行った.最後に,分布入力と境界入力の双方を有する並流型二層流熱交換方程式を取り上げ,安定化問題を考察した.そのシステムは二つの1階双曲型偏微分方程式によって記述されるが,特にフォワードステッピング法による安定化手法について述べた.何も制御しなくても有限時間経過した後は状態がゼロになるが,特に初期データが共に正の場合には,あるいは共に負の場合には,L^2ノルムの減衰が速いことが数値実験を通して確認できた.初期データが定符号でない場合にもフォワードステッピング法によって安定化できるが,そのときは逆に減衰が遅くなることがわかった.
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