研究概要 |
前年度途中に,より一般のクラスの木の被覆時間の詳細を得るためには新たなグラフのスペクトル情報という準備情報が不可欠,といった感触を得たため,グラフのスペクトルに関する新たな切り口を模索することに重心を移動した継続研究である.グラフの幾何を直接変形したときのスペクトルに及ぼす"遺伝部分"と"相違部分"の特徴付けという前年度の研究結果から,物性物理における金属半導体遷移と大いに関係する箇所でもあるFermi level近辺を主たる対象とし,状態密度函数の詳細な記述と特徴付けをまず目指した.このことに関しては,残念ながら現在のところ,顕著な結果は得られてはいないが,その脇道の一つとして,グラフ上で波動函数を考えた"量子グラフ"に関する散乱問題について,多少ながら新たな見識が得られた.これは,小山高専の佐藤巌氏との議論から始まった共同研究であり,具体的には次のようなものである:有限グラフを対象とし,各辺上で波動函数を考え,さらにその波動函数の接続として,各頂点での離散ラプラシアンを用いた接続条件を考える.そこで各頂点での波動函数の散乱データを用いた,有限グラフ全体を系とする散乱行列を考え,その行列の持つある特徴的な性質の炙り出しを試み,成功した.従来からある"量子グラフ"は2階微分を用いた接続条件を考えるのが主流であることからすると,ここでの設定はより離散を意識したといえよう.さらに散乱行列に内在する古典的推移行列が,元々のグラフのラプラシアンのスペクトルのみならず,その被覆グラフに関する情報をも秘め持つといった特性も示唆している内容となり,状態密度函数とグラフの幾何のより密接な情報にあらたな光があてられたと信じている.これ以外にも,隠れたスペクトルといえるレゾナンスの解析などについて,様々な研究者との議論を通して,少しずつではあるが結果を重ねることもできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフ上の酔歩の被覆時間そのものから,それを制御するグラフのスペクトル構造へ研究の重心が移動したものの,グラフのスペクトル幾何の詳細なる情報が被覆時間の解析に必要であることはいうまでもなく,そこで量子的な散乱行列を通して古典的推移作用素の新たな性質を見いだせたのは,それ自体確固たる進展であるとともに,今後の研究にの新たな方向性を示唆したものとなったことから上記のように判断する.
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今後の研究の推進方策 |
従来に引き続き,グラフのスペクトル幾何に対して,多様な切り口からアプローチを試みる.その上で,得られた情報からグラフ上の被覆時間との関連を解析し,さらに現在までに解析できているものより広い一般のグラフに対する被覆時間の解析に繋げるつもりである.
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