研究概要 |
私は、Chaitinらによって創始されたアルゴリズム的情報理論を拡張して、量子力学に適用し、量子測定に関するゲーデルの不完全性定理を導出しようと試みている。本研究は、この全体構想の一環であり、今年度は、平成19年に私が導入したアルゴリズム的情報理論の統計力学的解釈(以下、“統計力学的解釈"と略す)の結果を大大的に活用して研究を進め、以下の成果を得た。 1.統計力学的解釈で現れる熱力学的量のランダムネスに関する性質を調べた。この量は、Chaitinの停止確率Oの一般化となっているものであり、統計力学的解釈では、温度が熱力学的量の圧縮率の役割を果たすことを発見した。更に、温度自身の圧縮率も温度で表されることを発見し、その結果として、圧縮率に関する不動点定理を導いた。これら一連の成果は、国際会議CiE2008, ALC10, LFCS'09で逐次発表した。なお、統計力学的解釈を実際の物理系で実現できることは、量子測定に関するゲーデルの不完全性定理を導出したこととほぼ同値となり、この実現の可能性を模索することは、本研究にとって極めて重要である。 2.これら熱力学的量と密接に関係する、universal probabilityのべき和について、ランダムネスに関する性質を調べ、国際会議ISIT2008で発表した。 3.Chaitinの停止確率Oそのものの性質についても研究を推進し、Oと停止問題との計算能力の差異について詳しく調べた。その結果、Oと停止問題の間には、計算可能性の理論の文脈でありながら、一方向性関数的な計算能力のギャップがあることを発見した。この成果は国際会議CiE2009で発表予定である。
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