研究概要 |
今年度は逆問題の研究を主に遂行した.プロトタイプとして,まず一様な電荷密度1を持つ形状未知の曲線が空間に作る静電ポテンシャルを離れた一次元区間で観測した値からもとの形状を決定する問題を考察した.電荷分布が定める静電ポテンシャル場の式を曲線の定義方程式に対する積分方程式と見なし,逆に解くのだが,非線型の難しい方程式になるので,まずニュートン法により数値的に求める実験を行った.猛烈に非適切だが,両端固定(既知),および自由(未知)の場合と星状型の閉曲線のそれぞれについて,いくつかのモデルを仮定し,元の曲線に近い初期推定値から出発すると,予想以上に良い再構成結果が得られた.ただし,反復回数を多くしてゆくと収束せず振動する現象が現れることも有り,反復法の力学系的性質の研究が必要なことが示唆された.数学的な一意性についてもまだ不明である.ただし同様の設定で,曲面状の一様電荷分布が定める静電ポテンシャル場を面で観測した値からもとの曲面を推定する問題については,数学的一意性が示せている.理論的には非適切性も曲線のときよりはゆるいようであるが,実際の数値計算では,有限要素法を用いた時間のかかる計算となり,計算資源の制約から,あまり細かな分割が使えなかったので,数値実験ではこの差ははっきりとは示せなかった.以上の途中結果は学科のテクニカルレポートとして既に公表済みであるが,現在,細部をつめる作業中で,終わり次第理学部紀要に投稿する予定である.
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