研究概要 |
本研究課題の初年度である。1. 量子力学のプロパゲイター,即ちSchrodinger/Diracユニタリ群とその積分核,Green関数,また,虚数時間版である半群とその熱核を如何に構成しそれから更なる情報を如何に得るかについての研究である。特に経路積分的視座からも考えたい。先ず経路積分と係わるTrotter積公式の作用素ノルム収束に関するこれまでの研究の継続としては,一瀬は東嘉紀との共著論文[Integ.Equ.Oper.Theory(2008)]において次を証明した:調和振動子の場合に,対称Trotter積の作用素ノルム及びその積分核が,一般の場合の対称Trotter積公式の最良誤差評価O(1/n)よりも更に良い誤差評価O(1/n^2)で収束する。証明は対称Trotter積の積分核を具体的に計算することにより,誤差を上下から評価するものであった。これは,田村英男(岡山大学)との共同研究[Comm.PDE(2004)]において,一般の無限遠で多項式増大するポテンシャルV(x)をもつSchrodinger作用素-Δ+V(x)の場合で得た上からのみの誤差評価O(1/n^2)の結果の一部精密化であり,最良誤差評価に関する問題を決着させた。これらの研究について一瀬が田村英男と総合的サーヴェイを行った共著論文がMark Krein生誕100年記念論文集Modern Analysis and Application (Birkhauser 2009)に掲載の予定である。2. 非可換調和振動子の熱核を経てゼータ関数の展開式の問題についての続きの研究を始め,2008年9月ドイツのゴスラーで開催された国際会議「偏微分方程式とスペクトル理論」で,一瀬はこのテーマについて講演した。示唆に富む2質問があり,それについて検討中である。3. また,斉藤義実(アラバマ大学バーミンガム校)とDirac作用素のゼロモードにかかわるDirac-Sobolev空間に関する論文を書き投稿中である。4. 来日中の数理物理学の専門家であるWitold Karwowski教授(ポーランドOpole大学),Pavel Exner教授(チェコ科学アカデミー),Elliott H. Lieb教授(Princeton大学)を,それぞれ2008年5月,10月,2009年1月に金沢に招聘し,プロパゲイターに関する知識の提供を受けた。
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