昨年度の科研費の研究活動のうち、東北大の日合文雄氏との情報交換でHiai-Petzの幾何を知り、従来から研究を続けてきたCorach-Porta-Rechtの幾何学的考察を発展させることができた。現在も研究は発展中であるが、今年度の成果としては、まずHiai-Petzの計量幾何を「接続の幾何」により計量と無関係に再構築し、また計量としては新たにユニタリ不変ノルムによってFinsler計量を導入することができた。これが1番目の論文の結果である。 さらに測地線の最短性について、ノルムが「強凸」である場合には測地線自体が唯一の最短曲線であり、強凸でない代表的なKy Fanノルムについては、測地線以外に最短曲線が構成できることがわかった(2番目の論文)。これらの結果によって、作用素論や作用素不等式(特にユニタリ不変ノルムの不等式)の研究において幾何学的考察が本格的に導入できるようになったと言えるだろう。 これらの結果は、日本数学会秋季年会(大阪大:9/26)、京都大学数理解析研究所研究集会(10/29)、奈良教育大での作用素論・作用素環研究会(11/18)で、それぞれ違った方向から研究発表した。この研究は、さらに一般のquasi-meanを測地線とする幾何学に発展しつつあり、作用素のエントロピーとも関連がついて、年度末の日本数学会春季年会(慶応大:3/25)ではその経過を含めて、特別講演を行った。次年度はそれらの結果をまとめることから始めることになると思われる。
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