本年度の研究計画に従って以下のような考察・議論を遂行した。昨年度の研究成果では、q-circularityに関しては作用素のcircularityの性質を調べることに帰着することを報告した。そのcircularityを規定する強連続1径数ユニタリ群が存在する場合を強circularityとよぶ。既約なcircular有界作用素が強circularになることは25年ほど前に、W. Arveson等により示されている。非有界作用素の場合、その極分解における部分等距離作用素が既約ならばcircularityから強circularityが従うことが判明した。次に、パラメータqが1より小さい正数の場合、変形作用素族で最も広いクラスに属するq-変形ハイポ正規作用素は(零作用素でなければ)必ず非有界となる。 一方、パラメータqが1より大きい正数の場合には、有界な場合も非有界な場合も起こりえる。これまで有界作用素に対するq-変形作用素の議論が為されていないこともあり、有界区間における2乗可積分関数からなるヒルベルト空間上の積作用素から生成されるq-変形作用素でスペクトルが零のみからなる具体例を通して、有界な変形作用素のスペクトル解析について考察を行った。また、q-正規作用素の大きな特徴である「自己のスカラー倍にユニタリ同値になる」性質に関連して、標準の有界作用素間の共通因子を介した可換性(擬可換性)を、ヒルベルト空間より大きな空間であるバナハ空間上の有界作用素の場合に、連携研究者である神奈川大学の長教授と研究討議を重ねた。特に、「一様凸バナハ空間において正規作用素間の自明でない擬可換性が成立すれば、その共通因子の絶対値は1となる」ことが示せた。この結果はヒルベルト空間上で先達の研究の一般化であり、バナハ空間上での擬可換性の研究の進展に寄与するものと考えられる。
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