研究概要 |
ヒルベルト空間上の自己共役な有界線形作用素の正定値性に基づく順序に関する不等式とその応用について研究し,幾つかの成果を得た.数については成り立つ結果が,行列や線形作用素に対しては,その非可換性により,一般には成り立たない.この不都合さを克服することが本研究の大きな目的であり,本研究で得られた結果は,当研究分野の進展という面のみならず,他の数学の分野や物理学への応用という面からも,大変有意義であると考えられる.当該年度の具体的な研究成果は以下の通りである. 1. 古田不等式を応用することにより,ある種の作用素方程式の正定値な解の存在の証明した.また,これらの解から,半正定値行列の幾つかの具体例を示した. 2. 一般化古田不等式のさらなる一般化として,反復的な形式を持つ不等式を示した.また,そのlog-majorizationへの応用を得た. 3. 単位的な正値線形写像に関する有名なChoiの不等式と,最近のBourin-Ricardによる不等式を補間する,より一般化された不等式を示した. 4. 半正定値行列の凸錐におけるThompson計量に関して平行四辺形的な性質を持つ四辺形について、幾つかの幾何学的な性質を得た. 5. 情報理論におけるデータ処理不等式と関連する行列不等式の研究を行い,二元通信路に対するEvens-Schulmanによる逆不等式の一般化を試みた.
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