超格子構造とは、江崎玲於奈の提唱による異種半導体の薄膜を積層させて製造される人造の構造物で、量子効果を用いた半導体デバイスの一種である。特定のエネルギーを透過または遮断する特性を持つ電子デバイスであり、透過域には真の透過域と準透過域が生じることが知られているが、その生成の原因は不明で、その制御は難しい問題になっている。 本研究はこの超格子構造を数学的対象ととらえて、その特性を数学的に解析することにある。この問題は、数学的には一次元のシュレーディンガー方程式の逆散乱問題のひとつである。本年度の研究では次のような成果が得られた。 まず、研究協力者である浅倉邦彦と共同で見出したデルタ型の超格子とデルタクライム型の超格子の双対性について詳細なシミュレーションを行った。これにより、従来からのデルタ型の超格子の成果をデルタクライム型の超格子の解析に応用できる可能性が見いだせた。 また、スペインのマドリッド大学のF.Dominguez-Adame教授の示唆を受けて、時間的に周期的な外場を与えた場合の超格子構造に伴う波動関数の時間的周期運動の安定性の問題のシミュレーションを行い、その現象を確認した。 さらに、純数学的な課題として、デルタ型の点相互作用項を持つシュレーディンガー作用素の離散固有値の離散版について多次元の場合への拡張を行った。まだ限られた設定においてのみであるが、愛媛大学の野村裕司氏との協力のもとで共鳴状態の導出に成功した。
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