非線形波動方程式の外部問題の大域解の存在条件と解の挙動を明らかにするための準備として、本年度は線形波動方程式の外部領域における初期値境界値問題をディリクレ境界条件下で考え、その解の挙動について詳しく研究した。得られた成果は以下の通りである。障害物が非捕捉的であり初期値が有界な台を持つ場合、外部問題の解が、もとの初期値に適切な修正を加えたものを初期値に持つような、全空間(つまり障害物がない空間)における初期値問題の解にエネルギーの意味で近づくことが知られていた。しかし非線形問題への応用を考える場合には、単に近づくことが分かるだけでは不十分であり、どのぐらいの速さで近づくのかが非常に重要になる。そこで、外部問題の解が、(全空間での)初期値問題の解に近づく速さがどの程度であるかの評価を得た。修正された初期値の台は一般には有界にはならないが、遠方で指数的に減衰することも明白にした。また、各点的な漸近形と、そこへ近づく早さに関しても精密な結果を得た(久保英夫氏との共同研究として投稿準備中)。これらの結果を非線形問題に応用することにより、非線形問題の解の存在時間や大域解の存在条件の解明に、かなりの進歩が期待できる。上記の研究と並行して、アリニャックの条件の下で、非線形波動方程式系の(全空間での)初期値問題の解の各点的な漸近挙動についての研究も行った。これまでに分かっていた、自由解に近づく場合と、エネルギーが増加して自由解に近づかない場合以外にも、エネルギーは有界に留まるが自由解には近づかない場合があることが明らかになった。ここで得た知見は外部問題の研究にも大きな役割を果たすと期待できる。
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