本年度は半線形波動方程式の外部問題に対する解の最大存在時間についての研究を行った。非線形項の形と初期値と障害物に依存する量を用いて、解の最大存在時間の詳細な情報を得ることにより、逆に大域解の存在条件を明らかにするのが目的である。本年度に得られた成果は以下の通りである:空間次元が3次元の場合に単独の半線形波動方程式の外部問題を、ディリクレ境界条件の下で考え、初期値の大きさを0に近づけたときの解の最大存在時間の下極限に対する精密な評価を得た。この結果はジョンやヘルマンダーらによって得られた初期値問題の解の最大存在時間に対する結果を、(ディリクレ条件を課した)外部問題の場合に拡張したものといえる。この結果を得るためには昨年度に得た線形波動方程式の外部問題に対する解の漸近挙動が重要な役割を果たす。また特に障害物が球である場合に、球対称解を許すような特別な非線形項と特別な初期値の下では、上記の解の最大存在時間に対する評価式は最適なものであることも明らかにした(久保英夫氏との共同研究として投稿準備中)。今回得られた結果によれば、単独の半線形波動方程式の初期値境界値問題をディリクレ条件下で考えた場合には、いわゆるnull条件が、小さな初期値に対する大域解の存在のための必要十分条件であることが予想される(ただし現時点では最適性は特別な場合にしか得られていないので、null条件が必要十分条件であることが示されたわけではない)。
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