非線形双曲型方程式系の大域解の存在条件の解明と、またその大域解の漸近挙動についての研究を引き続き行った。本年度の主要な研究成果は以下の通りである:3次元空間における、単一の伝播速度をもつような非線形波動方程式系を考えるとき、小さな初期値に対して初期値問題が大域解をもつための条件は、Klainermanによって1980年代に得られた(いわゆるnull条件)。またその条件の下で大域解は漸近自由であることが分かる(つまり時間がたつと非線形項を持たない線形の方程式の解にエネルギーの意味で漸近していく)。成分毎に伝播速度が異なるような非線形連立波動方程式系に関しても、初期値問題に対するnull条件は横山氏らにより導入され、2000年に大域解の存在が示された。この大域解存在の結果はディリクレ境界条件を課した外部問題にも拡張されている。しかし、単一伝播速度の場合とは異なり、複数の伝播速度を持つ場合には、null条件の下で大域解が漸近自由であるかどうかは、全空間の初期値問題においてすらこれまでは分かっていなかった。今回、この問題に取り組み、まず大域解の各点的な漸近挙動を求め、さらに波動方程式の外部領域での散乱理論における方法と組み合わせることにより、エネルギーの意味で大域解が漸近自由であることを示した(投稿準備中)。原点から離れた部分の情報のみを使うため、この手法は有界な障害物がある場合の外部問題に対しても有効である。 他には、2次元空間におけるクライン-ゴルドン方程式系の初期値問題も考察し、Delortらによるnull条件の下で大域解の存在定理の簡易な別証明を与え、さらに解が漸近自由になることを示した(小澤徹氏、砂川秀明氏との共同研究;投稿中)。
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