研究概要 |
昨年度の数値実験を拡張し,同期回転惑星気候の自転角速度依存性の調査を行った.同期回転惑星とは半球が常に中心星からの入射放射を受け,反対半球には放射が入射しない惑星であり,中心星の近傍に存在する系外惑星の多くが同期回転していると予想されている. 使用したモデルは静水圧を仮定した3次元球殻モデル,地球流体電脳倶楽部dcpam5である.大気は,水蒸気を想定した仮想的な凝結性成分と乾燥空気を想定した非凝結性成分から成る.水蒸気だけが長波放射を吸収,射出し,その吸収係数は波長によらない定数であるとする.乾燥空気は放射に対して透明であるとする.地表面の比熱は0と仮定する.重力加速度,惑星半径などは地球の値を用いる. 自転角速度の値としてΩ=1から0(Ωは地球の値で規格化した自転角速度)までの20通りを用いた計算を行った結果,Ωの値に応じて3種類の気候レジームが存在することがわかった.Ω>1/3の場合,昼半球から夜半球への熱輸送は赤道域における波動運動と中高緯度域における傾圧不安定擾乱に伴って起こる.Ω<1/20の場合,太陽直下点における上昇流と対蹠点における下降流から成る昼夜間対流によって熱輸送が起こる.1/20<=Ω<=1/3の場合には,赤道波動・傾圧不安定擾乱と昼夜間対流の両方によって昼半球から夜半球に熱が輸送される. 上記に加えて,太陽定数依存性の調査に向けた予備実験も開始した.太陽定数を増加させた場合,鉛直方向の2-grid noiseの振幅が増大するため長時間積分が困難であることがわかった.今後は,鉛直フィルターの導入など,太陽定数増加実験の長時間積分を可能にする方策を検討する. また,形成直後の系外惑星の気候計算をめざして,水素大気用の放射スキームの開発にも着手した.今年度は,放射計算の定式化と水素の吸収係数データの収集を行った.次年度以降,放射スキームの実装に進む予定である.
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