研究概要 |
飛鳥時代は,日本において天文・自然現象の記録が初めて行われるようになった時代である。しかし,それらの記録は必ずしも真の記録とは限らない.古代の天文記録の真偽を確かめるためには当時の地球自転角パラメータΔTの値を正確に知る必要がある.我々はすでに日食記録からそれを求めてきたが,さらにその精度を上げるため,紀元1年から600年までの中国における掩蔽の記録を調査し,日食の記録から得られるΔTの値と比較しながら,その真偽を確かめつつ,当時のΔTの値の精度を上げた.中国の春秋時代の日食についても調査した.その結果は2009年8月にブラジル・リオデジャネイロで行われた国際天文学連合総会における第41コミッションの会合で発表するとともに,国立天文台で開いた研究会の集録にも発表した. 日本書紀の最後の紀である持統天皇紀(西暦686-697)から続日本紀(西暦697-791)には日食記事が多く現れる.しかし,それらの多くは日本で見えたはずのないもので,予報で書かれたものであることがはっきりしている.ただし,そのほとんどは,その記録の年月日に地球上のどこかで日食が起きていたのである.不思議なのは,記録されているものが必ずしも世界的に見て食分の大きいものではないという点である.この点について調査するには,当時どのように日食を予報していたのかを解明する必要がある.そのため,日本で最初の暦法である元嘉暦について,中国の宋書に書かれている解説を読んで調査を開始した.元嘉暦法で採用している朔望月の長さはすでにかなり正確なこと,月の運動の中心差も現代の値に近いものが採用されていることなど,これまでに元嘉暦法について判明した事実は2009年12月に国立天文台で我々が主催した第3回天文学史研究会と,2010年1月に岩手県奥州市の奥州宇宙遊学館で行われた宇宙遊学館第2回ワークショップで発表した.
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