背景銀河の形状の高次モーメントを用いて弱い重力レンズの新たな解析法を開発した。この方法をすばる望遠鏡で観測しA1689という銀河団データに適用し、これまで弱い重力レンズ解析では検出不可能だった中心部付近の暗黒物質分布の部分構造始の検出に成功した。さらにこの方法を通常の弱い重力レンズ解析に用いられるレンズポテンシャルの2階微分から作られる重力歪み(シア)に適用できるように拡張した。この方法を、暗黒エネルギー観測に最適であると考えられている宇宙シア解析に利用することによって、重力レンズ信号の雑音を10%減少させることを数値実験により確認した。宇宙シアは宇宙の大規模構造がつくる微弱な重力レンズ現象であるため、その信号は極めて弱く、雑音を10%減少させることは、その観測にとって極めて重要な意味を持つ。 また宇宙論的に我々のごく近傍にある髪の毛座銀河団の一部の領域について重力レンズ解析を行い、いくつかの重力的な部分構造を発見した。これによって質量と明るさの経験則を仮定することなく、銀河団の部分構造の質量関数を観測的に決定する道が開け、冷たい暗黒物質に基づく構造形成理論の検証を行うための重要な新しい方法を確立した。 また観測的宇宙論にとって極めて重要な距離と赤方偏移との関係は通常、一様・等方な時空のものが採用されているが、実際の時空は非一様性であり、その影響についての考察をおこない赤方偏移が1を超えるような遠方では通常の関係と10%程度の差があることを見出した。
|