本年度は、LHC実験におけるトップクォークの質量の精密測定について、及びクォークを含むフェルミオンの質量の起源について研究した。前者については、LHC実験においてトップクォークによるQCD束縛状態の共鳴ピークが存在することを理論的に初めて突き止めた。従来は、陽子中のパートン分布関数とinitial state radiation(ISR)の影響で共鳴ピークはなめされて消えてしまうということが言われてきたが、パートン分布関数とISRの影響を取り入れてもきちんとピークが残ることを示した。これによって、初めてカラー単重項の観測量をもちいてトップクォークの質量を測定する可能性が開けた。その方法を用いれば、原理的にはLHC実験でも非常に高精度でトップ質量を測定できる可能性がある。現在その方法を考案し、実験的に十分な測定ができるかどうかを検討中である。もう一つのフェルミオンの質量の起源に関する研究では、標準模型を超える理論的枠組みの中で、初めて、輻射補正を含めてもレプトンのKoide質量公式を保つようなメカニズムを発見した。QED輻射補正をfamily gauge相互作用による輻射補正で相殺するメカニズム、及び、Koide質量公式を満たすスペクトルに対応するスカラー場の真空期待値を、理論の持つfamily gauge対称性と無矛盾に生成するメカニズムを提唱した。この研究は、フェルミオンの質量スペクトルの起源は1000TeVスケールにあるfamily gauge対称性に帰着するということを示唆しており、新しい素粒子理論の将来像の可能性を指し示している。
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