本研究の目的は「格子QCDにより共鳴状態の性質を調べる方法の確立」である。具体的な方法として、崩壊の終状態の散乱位相を計算し、その値から共鳴状態の崩壊幅と共鳴エネルギーを求める方法を採用する。この目的のため、平成20年度からρ中間子崩壊の研究を開始し、平成21年度では、π中間子質量=410MeVのもとでρ中間子崩壊幅の計算を行った。平成22年度はそれを更に現実のクォーク質量に近いπ中間子質量=300MeVでの計算を行い、崩壊幅のクォーク質量依存性を調査した。 計算ではPACS-CSグループによって生成されたゲージ配位を用いた。ρ中間子の研究に適した2種類の演算子を選び相関関数行列を計算した。これを対角化し、基底状態と励起状態をとりだし、それぞれの状態のエネルギーを求めた。そのエネルギーから有限体積法により散乱位相を計算し、ρ中間子の崩壊幅を得た。崩壊幅の計算結果は152(28)MeVである。平成21年度行った重いクォーク質量(π中間子質量=410MeV)で得られた結果は、130(18)MeVである。よって、これによりρππ有効結合定数のクォーク質量依存性が小さい事が判明した。この小さい質量依存性は、カイラル摂動論により予想されていたことであり、その予想が第一原理計算により示されたことになる。また、これら格子計算で得られた崩壊幅の値は、実験値(150MeV)に等しい。これは、本研究で用いた計算手法の正当性を示すものであり、格子計算による共鳴状態の性質の研究の一つの手法として確立されたといってよい。今後、本研究の研究手法を種々の系に適用し、実験的に完全に明らかにはなっていない共鳴状態の存在や崩壊幅の予言等、本研究の成果には様々な発展が期待される。本研究の研究成果は平成23年7月までに論文発表を行う予定である。
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