研究概要 |
この研究の目標は弦理論の非摂動的定式化であるが,その一つの有力な選択肢としてM理論があげられる。特にM理論の5次元のブレーンは,弦理論の間の双対性の対応を考える上で基本的な役割を果たしていると考えられる。この5次元のブレーンはこれまでのDブレーンとは違い非可換な2形式場で記述されていると予想されているが,その数学的な理解がこれまではそれほど発展していなかった。私はP.M.Ho氏らとの共同研究で1次元空間をコンパクト化を行うことにより非可換な自己双対2形式の作用が書けることを発見した。これはこれまでの先行研究に無かった著しい結果である。その後,得られた作用の超対称化を目指して研究を継続している。 もう一つの大きな成果は,いわゆるAGT関係式と呼ばれる4次元理論と2次元理論の対応関係に関するものである。これは上と同様に弦理論の双対性に深く関連する分野で,上で述べたM理論の研究をトップダウンとすると,ボトムアップ,すなわち個々の双対性を数学的に厳密に理解しようとするものである。今年の研究成果としては,この2つの理論の間の対応関係の背後にある対称性としてW無限大代数があることを発見したことがあげられる。W無限大代数とは2次元の面積保存変形を記述する変換であり,量子ホール効果などの他分野でも重要と考えられている対称性である。この対称性は4次元理論ではインスタントンモジュライ空間に作用することが理解され,一方で2次元理論では相関関数を厳密に規定する対称性として実現されることが理解できた。
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