(1)昨年度はAdS/CFT対応を使って、4次元の共形場の量子論で荷電密度が有限な場合に、その荷電にカイラル異常があると、空間変調をもつ相転移が有限温度で起き得ることを示したが、今年度はこれを発展させて相転移後の終状態のホログラフィックな記述をあたえた。これにより、相転移の次数が2次であることが示された。しかし、共形場の1/Nの効果を入れると、相転移の次数が1次に変わる可能性も指摘した。また、これをQCDの酒井・杉本模型にあてはめ、クォーク・グルーオン・プラズマ相で、このような相転移が起こることを示した。 (2)トーリック型のカラビ・ヤウ多様体に巻きついたDブレーンの束縛状態を計算するさまざまな方法を開発した。昨年度は、ダイマー模型と呼ばれる統計模型の状態とDブレーンの束縛状態との1対1対応を確立し、また統計模型の連続極限でカラビ・ヤウ多様体の幾何が再現されることを示した。今年度は、この研究成果に基づいて、ダイマー模型の分配関数が、ある種の行列積分によって計算できることを示した。さらに、それとトポロジカルな弦理論の分配関数との関係を明らかにした。行列積分としての表示は、いわゆるremodeling conjectureの証明の重要な手がかりになると考えられる。 (3)K3多様体の楕円種数を2次元のN=4超共形代数の既約表現の指標で展開すると、その展開係数がマチュー群M24の次元で表されることを示した。これは、K3多様体を標的空間とする2次元の非線形シグマ模型に、M24の対称性が隠されていることを示唆する。
|