提案した素粒子へのアプローチで平成21年度は特に宇宙からのものに活発に取り組んだ。PAMELAやFERMI衛星のデータで宇宙線に(陽)電子の成分が期待されていたものよりも多いことがわかり、銀河のハローの中にある暗黒物質の消滅か崩壊による寄与かもしれないからである。消滅によると考えた場合には、現在の宇宙の暗黒物質の量を説明できる充分小さい消滅断面積では宇宙線の量を説明できない。そこで銀河ハローの中での消滅断面積を三桁程大きくするメカニズムが必要であることが知られていた。我々は消滅に寄与するs-channelの仮想粒子がしきい値のわずか下にあると宇宙初期と現在の速度分布の違いのため位相空間で平均した消滅断面積が何桁も大きくなるという非常に簡単なメカニズムを提唱し、Breit-Wigner enhancementと名付けた。Spiresデータベースによると短期間に72件の引用件数がある。また、データで示唆される数TeVという重い暗黒物質と、階層性問題で要求されるTeV以下の超対称惟とのずれの問題があった。そこで数十TeVにあるgauge mediationの模型で考えられる超対称性を破るセクターに近似的な対称性があり、その自発的な破れで南部・ゴールドストーン粒子が軽く出るために数TeVの安定な粒子が存在するという模型を提唱した。これはあと二つのアプローチである加速実験と地下実験両方にとって朗報である。更に宇宙線のデータを説明する模型に一般的に当てはまるニュートリノの信号を指摘し、今後数年間に決定的な検証が可能であることを示した。また、近年原子物理で検証されている位相欠陥の実験にヒントを得て、インフレーション以降の磁気単極子は宇宙論的に排除されていることを指摘し、ニュートリノの質量の起源の模型に制限を与えた。
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