今年度は私の研究が大きく広がり、観測論的宇宙論のデータを初めて出版することができた。素粒子物理学と天体物理学の繋がりはますます緊密になると考えており、特に暗黒物質・暗黒エネルギーの正体の解明は両者に共通の課題である。両方の分野からの研究者が集まった第三期のスローン・デジタル・スカイ・サーベイから最初のイメージングのデータを発表した。これは人類史上最大の宇宙地図であり、一兆画素を超える。現在取り組んでいる分光サーベイのデータと合わせて、バリオン振動という銀河分布の特徴的な相関を基準に遠方銀河への距離を正確に定め、宇宙膨張の歴史を精密測定して、暗黒エネルギーの正体に迫っていく。現在進めているすばる望遠鏡での広視野・大深度のサーベイへの準備にもなる。 一方LHC実験が本格的に開始し、新しい物理の発見へ向けての期待が高まっている。まだ出版には至っていないが、新粒子が発見された際にどのようにしてその基本的な性質、特にスピンを決めていくかが、新粒子の理論を構築する上で必須である。既に新粒子崩壊時の方位角の分布に現れる、異なるヘリシティー状態の間の量子干渉の効果が役に立つことは指摘し来たが、今回余剰次元理論に現れるカルツァ・クライン・グラビトンに適用し、スピン2という非常に特徴的な情報を引き出せることを示した。今後LHCでの暗黒物質研究に繋がる。また、今までLHCの1fb-1のデータでは探査の対象にならないと考えられて来た二光子の信号等も、ある種のモデルでは可能なことを指摘し、この夏のデータでも十分電弱対称性の破れの機構について重要な情報が得られることを示した。 地下実験についてはカムランド実験に引き続き参加し、特にニュートリノ物理の将来について最も重要なパラメータとなるθ13について、ゼロでない可能性を79%の確度で示した。 こうして加速器・宇宙・地下からの多角的なアプローチで素粒子物理学の次の段階へ着実に進んで来ている。
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