本年度の主な成果は、電子及びミュー粒子の異常磁気能率(g-2)におけるQED(電磁相互作用の量子論)補正のうち10次摂動項の計算、及び8次摂動項の数値精度を向上を完了したことです。 ミュー粒子のg-2に関しては、現時点で理論(素粒子の標準模型)からの予言値と実験による測定値の間には差があります。実験精度の改善がこの10年間で図られようとしている中、理論値の精度も改善しなければ、この差が未知の素粒子構造によるものなのか否かに関する最終的な結論を導くことはできません。本研究では、この差と同じ大きさに相当するQEDの8次摂動効果の理論計算の精度(統計度を向上)と信頼性を飛躍的に向上させました。また、次世代測定における不定性と同じ程度の大きさと見込まれていたQEDの10次摂動補正に関する計算を完了しました。これらの成果により、現時点で伺われている理論値と実験値の差がQEDによる寄与に由来していない点の確認と、将来の実験結果を解釈する上で十分な精度でQED補正を決定できました。 電子のg-2における10次補正項を完全に得ることによって、その測定値の現在の誤差より小さい理論的不定性に到達することができました。この事実を踏まえ、実験値と理論値の一致を要求することにより電気的な力が素粒子レベルで一度だけ働く際の強さを、物理学史上最高精度で決定することができました。そして、原子物理の応用から決定された強さの値との整合性を確認することで、電磁相互作用及び量子論に関する人類の理解をさらに向上することにができました。 電弱対称性の自発的な破れを引き起こす上で適切なゲージ理論の力学を探求するため、6個のディラック場を含むSU(2)ゲージ理論に着目し、格子ゲージ理論によるシミュレーションを遂行することで、実効結合定数に赤外固定点がないこと、カラーの閉じ込めを示唆する予備的結果について国際会議で報告しました。
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