南部-ヨナ-ラシニオ(NJL)型のカイラル有効理論を用いた研究により、我々は量子色力学(QCD)相図において「新しい臨界点」が低温度・高密度領域に存在する可能性を指摘してきた。そこでは、ベクトル相互作用や現実的に要請される荷電中性条件により引き起こされるカイラル相転移とカラー超伝導の共存/競合が重要な役割を果たしている。今年度は、電荷中性およびベータ平衡条件の下で、ダイクォーク結合を持つQCDの軸性異常項およびベクトル相互作用の効果を2+1フレーバーNJL模型で調べた。電荷中性条件下でフェルミ面のミスマッチのために相の境界は非常に揺らぎが大きくなり、平均場近似では普遍的にいくつもの臨界点が現れ得ることを示した。また、軸性異常項とベクター相互作用は同じ役割をし、非対称クォーク物質での色磁気不安定性の問題が完全に回避され得ることを示した。このような低温度領域での「新しい臨界点」の存在可能性は、高密度QCDの理解の上でのアカデミックな興味にとどまらず、コンパクト星の内部状態の物理への大きなインパクトを与えるものである。 臨界点近傍のハドロン的な集団励起(相転移のソフトモード)が系を構成するクォークの準粒子描像自体を変更する可能性を探る研究を集中的に行ってきている。今年度、質量を持つベクトル型のボソン励起がクォークスペクトルに与える影響を全温度領域に渡った解析した。その結果、ボソンの質量程度の温度では、ゲージに依らず、クォークスペクトルは原点付近のものを含めて3ピークを持つことが明らかになった。さらに、ボソンがスカラー型の場合、超高温においてもこの3ピーク構造が維持されることを系統的な摂動論において示すことに成功した。これは、高温領域におけるクォークスペクトルについて全く新たな知見を与えるものであり、クォーク・グルーオンプラズマの物理や宇宙初期のフェルミオンのスペクトル研究について重要な基礎を与えるものである。
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