本年度の一つの重要な成果として、物理学会での招待講演がある。そこではQCDの磁性として自発磁化(強磁性)とスピン密度波についての研究成果を発表し、当該分野の専門家のみならず、周辺分野を含め幅広い分野の研究者に研究内容を知ってもらう良い機会となった。研究成果の発表としてはこの他にも京都で一月に開催された国際会議で招待講演を行ったことが特筆される。 研究成果としては、大きく分けて二つのことが挙げられる。一つは、前年度に引き続き、自発磁化をフェルミ液体論の枠組みで扱い、温度一密度平面での磁気的相図を完成させ、理論的にはゲージ相互作用による非フェルミ液体効果を確認したことがある。 他の一つはコンパクト星内部でのクォークーハドロン相転移を有限温度で考察し、混合相の性質を明らかにすると共に、状態方程式を導出したことである。この問題は直接クォーク物質の物性とは関係がないが、将来コンパクト星の現象とクォーク物質の物性の関係を議論するときに重要な役割を果たすことが予想できる。 これらの研究および最近の他の著者たちの仕事との関連において、新しい課題として、これまであまり視野に入れてこなかった磁化が空間的に非一様なスピン密度状態の可能性および一様な強磁性状態との関連など統一的理解が重要になってきたと考えている。この問題は密度一温度平面でのカイラル対称性の回復、QCD臨界点の性質と密接に関連しており、高エネルギー重イオン衝突でのQGP生成の物理とも関係しているので興味深い。 その他、連繋研究者との共同研究により、強磁性相における集団運動状態であるプラズマ振動の理解も進み、現在論文を準備している。スピン波などスピンに依存する集団励起の問題は引き続き重要な課題として残っている。
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