研究概要 |
本研究の究極の目的は、強い相互作用の基礎理論(量子色力学)を基に原子核等のハドロン多体系のダイナミクスを理解し、量子色力学が記述する多様な現象や相構造を包括的に理解する事である。同様な目的・動機を持つ研究は様々な手法を用いて広く行われているが、中間子原子と中間子原子核の系に着目するのが本研究の特徴である。原子核中での中間子の性質を通じて、有限密度中での強い相互作用の様相を理解する事を目標としている。 当該年度では、π中間子原子に関する研究を進展させ、成果を公表する事ができた。具体的には、π中間子原子におけるパイオン弱崩壊定数の核内での変化と、波動関数繰り込みの効果の観測可能性に関して、現実的な実験条件を視野に入れつつ詳細に研究した結果である。また、重い中間子系生成反応としての(γ,d)や(p,3He)等の2核子移行反応に関する理論的研究や、有限角度でのハドロン反応を用いたπ中間子原子生成に関する研究も公表した。π中間子原子生成スペクトルの特徴ある角度依存性や、2核子移行反応の持つ可能性が、理論的に初めて示された。更にη(958)中間子系の研究が進展し、カイラル凝縮を通じた質量生成機構に寄与する軸性量子異常の効果の特殊性から、強い引力にも関わらず極めて弱い吸収効果しか生じないといった相互作用の特徴が明らかになって来た。また、実験研究者との共同研究により、現存する加速器施設での研究の可能性に関しても検討が進み、近い将来に(p,d)反応による観測がなされる可能性もでてきた。
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