平成24年度の研究は,三井隆久氏と共同で様々な物質の有限温度のゆらぎを原子スケールで直接測定し,それを理論的に解析する研究を集中的に行いました.有限温度では,あらゆる物質が原子レベルで運動しており,これが統計物理,熱力学等で扱う有限温度の物質の振る舞いの根源です.原子レベルでの揺らぎは小さく,通常の測定法では散射雑音などの雑音に埋もれてしまい,直接測定することは困難です.我々は,本質的に新たな測定技術を開発し,これを用いて散射雑音を除去し,今まで見ることのできなかった揺らぎのスペクトルを測定しています.これについて,様々な物質の表面の熱振動を測定した結果とその分析を論文2編発表しており,さらに論文を投稿準備中です.そこでは,通常使われる流体力学的な理論を高い精度で検証したとともに,その限界を見ることができたと考えています.また,原子の光吸収の揺らぎスペクトルを測定し,そのスペクトルの背後にある理論的な仕組みを明らかにしています.このスペクトルを測定するために用いた技術は我々が開発した独自のもので,このスペクトルは過去に測定されていないと思われます.これについては現在論文を投稿中で,さらに論文を準備中です.これらの測定で用いた方法は,汎用性があり,近い将来様々な分野で活用されると考えています. 有限温度の非平衡系の研究においては,第一原理よりどのようにして,系統的に輸送係数を求めるかを調べています.数値的に求める事は可能であっても,摂動論などを用いて系統的に輸送係数を求めることは困難です.いくつかの物理系でこの問題の解決の方向性が現在得られており,研究を発展させています.さらに,粘性係数を場の理論において第一原理より求める方法を開発しています.それにより,本格的なシミュレーションを行うための解析的な準備が整いつつあり,近日中に数値シミュレーションを行なって検証する予定です.
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