今年度は、まず重力がエントロピーによる力であって、基本的な相互作用というよりは、ゲージ理論から生じる力であるという考え方に基づき、重力方程式が導けるかどうかを検討した。これは最近の大きな発展であり、多くの研究者が興味を持って研究を始めている。7月に行われた京都大学基礎物理学研究所研究会において、これに関する招待レビュー講演を行った。 また、時間に依存したブレイン解を以前に一般的に構成していたが、そのような解がいわゆるブレイン宇宙論として有用なのかどうかについて、ポスドクの南辻氏、鵜沢氏とともに検討した。残念ながら、今のところうまくいく模型は得られないという結論に達した。 重力からの寄与がアインシュタインテンソルに限らず、量子効果によるアインシュタイン曲率テンソルの高次項(たとえばガウスボネ項)とディラトンが入ったときのブラックホール厳密解の研究も引き続き行い、その大域構造を明らかにした。この課題につき、今まで、宇宙項が無い場合で空間が球対称な場合、宇宙項が負で、空間の曲率が0の場合の解、宇宙項が負で曲率が0でない場合、宇宙項が正の場合、宇宙項なしで空間の曲率がある場合の解を求め、それらの性質について詳しく調べていた。 現在の観測によると宇宙は加速膨張しているが、その原因は小さいが正の宇宙項があるためであると考えられている。しかし、単純には宇宙項は大きくなってしまい、観測による大きさの宇宙項を出すことは難しい。私は、低エネルギーの量子色力学で現れるグルーオンのモードが、このような小さな宇宙項を出す可能性を指摘した。今後の観測などによる確認が待たれる。
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