本年度は、E8×E8ヘテロティック弦理論における交差する5-ブレーン解に局在するゼロモードについて調べた。一般に、超重力のブレーン解は対称性を自発的に破り、それに付随する南部-ゴールドストーンモードがブレーン近傍に局在する。よく知られた例はD-ブレーン上の超対称ヤン-ミルズ理論だが、E8×E8ヘテロティック5-ブレーンではE7群の56表現になり、ADE特異点との双対性と矛盾しない。 一方、交差するヘテロティック5-ブレーン系はN=1超対称性を保つ4次元の交差をもち、SU(3)に属する一般化されたスピン接続がゲージ群に埋め込まれることによりE6ゲージ対称性が破れずに残る、現象論的応用も視野に入れた魅力的なブレーン模型となっている。研究の結果、南部・ゴールドストーンモードとしてE6の27表現に属する3つの超多重項がブレーンに局在し、そのうちの1つが他の2つと逆のカイラリティをもち正味1世代のカイラル多重項として4次元理論に現れることを示した。さらに、互いに異なるチャージをもつ2つのこのような交差ブレーン系をS1(/Z2)にコンパクト化することにより、ランドール・サンドラム模型に類似した設定で、ブレーン上にE6物質場をきわめて単純に実現することができる。この成果は、今後のヘテロティック弦によるより現実的なブレーンワールドの実現、ならびにヘテロティック弦理論におけるインフレーション模型の構築に向けた今後の応用研究の礎となると期待される。
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