一般に、弦理論で加速膨張を実現するためにはブレーンなどの特異点が必要であり(no-go定理)、またブレーンによって時空をワープコンパクト化するためには負の張力をもつブレーンが必要であることが知られている。タイプII弦におけるオリエンティフォールドのようなオブジェクトはヘテロティック弦では定義できないので、ヘテロティック弦における負張力をもつブレーンの起源は明らかではなかった。これを明らかにするために、本年度はアティヤ・ヒッチン多様体と呼ばれるハイパーケーラー多様体が遠方で負のNUTチャージをもつタウプナット空間に指数関数的に近づくという事実を利用して、その近似として得られる負チャージのタウプナットを正チャージのタウプナットとともに格子状にギボンズ・ホーキング計量の形で無限個配置し、それを周期的に同一視することによって超弦のコンパクト化を実現した。そのT-双対は正と負張力をもつ、ランドール・サンドラム的なブレーン系となる。この系は超対称性を半分保つ、一般化されたSU(2)ホロノミーをもっており、この一般化されたスピン接続をゲージ群に標準的に埋め込むことによってヘテロティック弦の背景場を実現することができる。すなわち、ヘテロティック弦の負の張力をもつブレーンは、アティヤ・ヒッチン多様体のT-双対として自然に理解できることが示された。また、負のチャージの位置近傍ではインスタントン効果が強くなるために近似された計量の特異的な振る舞いが改善されることを、ゲージ化されたシグマモデルを用いて評価することができる。
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