本研究は、特異なカラビヤウ空間上への超弦のコンパクト化に基づいて、素粒子の標準模型を越える現実的な模型を構成してその理論的性質及び現象論的帰結を調べ、LHC稼働後に予想される素粒子理論研究の新しい方向性に超弦理論として対応することを目的として計画された。その成果は次の通りである: (1)E8×E8 ヘテロティック弦理論における交差する5-ブレーン解に局在するゼロモードについて調べた。この系はN=1 超対称性を保つ4次元の交差をもち、SU(3)に属する一般化されたスピン接続がゲージ群に埋め込まれることにより E6 ゲージ対称性が残る。研究の結果、南部・ゴールドストーンモードとして E6 の27 表現に属する3つの超多重項がブレーンに局在し、そのうちの1つが他の2つと逆のカイラリティをもって正味1世代のカイラル多重項として4次元理論に現れることを示した。 (2)ワープコンパクト化に必要な負の張力をもつブレーンの(オリエンティフォールドが定義できない)ヘテロティック弦における起源を明らかにするため、アティヤ・ヒッチン多様体と呼ばれるハイパーケーラー多様体が遠方で負のNUTチャージをもつタウプナット空間に指数関数的に近づくという事実に着目し、ヘテロティック弦の負張力ブレーンがアティヤ・ヒッチン多様体のT-双対として自然に理解できることを指摘した。 (3)E8群に基づく超対称非線形シグマモデルにおける自発的対称性の破れを交差ブレーン系で実現し、準南部ゴールドストーンフェルミオンのカイラルスペクトラムの一致を確かめた。
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