研究概要 |
本研究の目的は、オーバーラップフェルミオンの定式化を用いることにより、現実的なカイラル対称性を持つ格子QCDのシミュレーションを行い、バリオン-バリオン相互作用を理論的に解明することである。低エネルギーでのハドロンの相互作用を特徴づける物理量である散乱長を、核子-核子、ハイペロン-核子、ハイペロン-ハイペロンに対して、格子QCDに基づくシミュレーションによって計算する。特に、オーバーラップフェルミオンの定式化を用いてカイラル対称性を尊重して解析を行うことにより、バリオン-バリオン相互作用におけるカイラル対称性の重要性を明らかにする。 2つの8重項バリオンからなる系をフレーバーSU(3)によって分類すると、8[○!×]8=27[○!+]10[○!+]10^*[○!+]8_1[○!+]8_2[○!+]1となる。平成20年度は27,10,10^*チャンネルについてバリオンの4点関数を計算するプログラムを開発したので、平成21年度は、残りの8_1,8_2,1チャンネルについてバリオンの4点関数を計算するプログラムを開発した。テスト計算として、24^3×48の格子に対してクェンチ近似で100個程度のゲージ場の配位の生成を行い、ウィルソンフェルミオンの定式化によるクォークの伝搬関数を計算した。得られたクォーク伝搬関数のを用いて、バリオンの4点関数を計算した。 また、関連した問題としてD_1D^*散乱の研究を行った。KEKのBelleによって観測されたZ^+(4430)の質量は、D_1とD^*の質量の和と非常に近いので、Z^+(4430)を、D_1とD^*がS-waveで緩やかに結合したエキゾチックハドロンであると考える案が提出されている。 有限体積中のエネルギー差から得られた散乱長はD_1D^*チャンネルでは弱い斥力であることがわかった。しかし、現段階では、統計誤差が大きすぎるため、はっきりした結論を出すことはできない。
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