研究概要 |
本研究の目的は,オーバーラップフェルミオンの定式化を用いることにより,現実的なカイラル対称性を持つ格子QCDのシミュレーションを行うことにより,バリオン-バリオン相互作用を理論的に解明することである。 平成22年度は,前年度に引き続き,関連した問題として,チャームクォークを含む中間子系の散乱長の研究を行った。KEKのBelleによって観測されたZ^+(4430)は,+電荷を持ち,チャーモニウムに崩壊することから,cc-ud-からなるエキゾチックハドロンの有力な候補と考えられるが,その質量がD_1とD^*の質量の和と非常に近いため,Z^+(4430)を,D_1とD^*が緩やかに結合した分子状態であると考える案が提出されている。 我々は,Z^+(4430)の性質を調べるために,Z^+(4430)と結合する2つのD中間子チャンネルD_1D^*,DD_0^*及び,チャーモニウムと軽い中間子のチャンネルX_<c1>(1P)p,J/Ψa_において散乱長の計算を行った。 24^*×48の格子に対して,クエンチ近似により,2000個のゲージ配位を生成し,ウィルソンフェルミオンによるクォーク伝搬関数を計算し,各チャンネルの相関関数を求めた。 有限体積中のエネルギーから,すべてのチャンネルにおいて,引力的ハドロン間の相互作用が得られた。 D中間子チャンネルD_1D^*,DD_0^*では束縛状態の存在を示唆し,クォーク質量に対する依存性も顕に見えた。 チャーモニウムと軽い中間子のチャンネルX_<c1>(1P)p,J/Ψa_1では,引力は,束縛状態を作るほど強くはなく,クォーク質量に対する依存性も見られなかった。
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